慢性閉塞性肺疾患(COPD)・在宅酸素療法(HOT)

Q1 慢性閉塞性肺疾患(COPD)とはどのような病気ですか?

慢性閉塞性肺疾患(COPD、chronic obstructive pulmonary disease)という名前は聞きなれないかもしれません。「慢性気管支炎(気管支の炎症)」や「肺気腫(肺胞の破壊)」という名前は聞いたことがあるのではないでしょうか。この「慢性気管支炎」と「肺気腫」を合わせて、「慢性閉塞性肺疾患(COPD、chronic obstructive pulmonary disease)」という名前で呼んでいます。タバコの煙を長期間吸いこんで生じた肺の炎症性疾患であり、喫煙習慣を背景に40歳以上の中高年に発症する生活習慣病と言えます。

【図1】 COPD(慢性気管支炎と肺気腫)

(アストラゼネカ 「COPDがよくわかる本」から引用)

Q2 COPDはどれくらいの頻度、認められるのでしょうか?

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40歳以上の人口の8.6%、約530万人の患者様が存在すると推定されています。しかし、治療を受けているのはほんの一部の患者様です。長期にわたる喫煙歴があっても、「年だからこれくらいの息切れはしかたがないか」「咳、痰が続くが生活に困らないので放っておいても大丈夫」と思っている人のなかにかなりの数の未治療のCOPDの患者様がいるということです。COPDの認知度があまり高くないこともあり、COPDの8-9割の患者様が未治療の状態になっています。

Q3 COPDの原因は何ですか?

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一番多い原因はタバコによるものです。喫煙者の15-20%がCOPDを発症します。タバコの煙によって気管支に炎症が起きたり、肺の組織が壊れたりします。タバコの煙によって気管支に炎症が起きることで「慢性気管支炎」の状態になります。慢性気管支炎になると咳や痰がでたり、気管支が細くなることによって空気の流れが低下したりします。気管支の一番奥にある肺胞が破壊されると「肺気腫」という状態になります。肺気腫になると酸素の取り込みや二酸化炭素の排出が低下します。

Q4 どのような場合にCOPDを疑えばよいでしょうか?

次のような項目が当てはまる患者様はCOPDの可能性があります。

□40歳以上である
□風邪でもないのに咳、痰が続く
□階段の昇り降りで息切れがある
□タバコを1日20本、20年間以上吸ったことがある

注目すべきことは、現在タバコを吸っていなくても、過去一定数の喫煙歴がある場合はCOPDになってしまうことがあるということです。すでに禁煙しているからCOPDにはならないとは言えないということです。

Q5 COPDではどのような症状が認められますか?

長引く咳、痰、階段の昇り降りの息切れなどの症状があります。

【図2】 COPDで認められる症状

(アストラゼネカ 「COPDがよくわかる本」から引用)

Q6 COPDと併存する病気はありますか?

COPDでは、喫煙や加齢により様々な病気と併存することが多いと言えます。
COPD単独ではなく、全身性の炎症により他の病気を伴うこともあるということです。
COPDに併存する疾患をあげておきます。

  • 心筋梗塞、狭心症
  • 脳血管障害
  • 骨粗鬆症
  • 抑うつ
  • 糖尿病
  • 貧血など

Q7 COPDと喘息が合併することはありますか?

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COPDは日中、動いた後に息切れがあり、安静時には症状はありません。これに対し喘息では安静であっても天候の悪化、季節の変わり目などの悪化因子によって症状が誘発されます。また、喘息症状は夜間に起きやすいのですが、COPDの症状は活動している昼間に起こります。さらに喘息では7割程度にアレルギー性鼻炎を合併しますが、COPDで鼻炎を合併することはまれです。COPDと喘息にはこのような違いがあります。COPDに喘息を合併した状態をACO(Asthma and COPD Overlap)と呼んでいます。ACOにおいてはCOPDと喘息の両方の治療をしないと症状が改善しないので注意が必要です。

Q8 COPDはどうやって診断するのでしょうか?

長期間の喫煙歴があり、慢性的な咳、痰、息切れの症状があればCOPDを疑い診断確定のために次の検査を行います。

  • 呼吸機能検査

  • 息を吸って吐くだけの簡単な検査です。COPDでは空気の通り道が狭くなってきているので、1秒間に吐く息の量が少なくなって表示されます。 1秒間に吐く息の量を最大努力で呼出したときにはける全体の空気の量(努力性肺活量)で割った値のことを1秒率といいます。1秒率が70%未満で閉塞性障害をきたす他の疾患を除外できればCOPDと診断されます。

  • 胸部レントゲン

  • 典型例では肺の組織が壊れて、肺全体が大きくなっていることがわかります(肺の過膨張)。肺が大きくなることで横隔膜が押されて平たくなってきます(横隔膜の平坦化)

  • 胸部CT

  • 肺胞が破壊されてくるとCTでは正常な肺に囲まれた低吸収域(LAA:low attenuation area)として認められます。

Q9 COPDを放置しておくとどうなってしまうのでしょうか?

COPDを放置した場合、問題となるのは次の3点です。

  • 肺機能の異常な低下→放置すると在宅酸素療法に至るケースも。

  • 正常な肺であっても加齢とともに肺機能は低下していきます。COPDの患者様では喫煙を続けていると正常な肺の機能の人より3倍も肺機能の低下速度が早くなると言われています。COPDの患者様でも禁煙をすれば、禁煙を始めた時点から肺機能の低下の速度は正常な方と同じ割合になります【図3】。COPDも重度の状態になりますと在宅酸素療法が必要になるケースもあります。治療によってCOPDの病気の進行を抑えることが可能になります。肺機能の異常な低下を防ぐ意味でもCOPDの早期発見、早期治療は大事になります。

【図3】 正常な人とCOPDの人の肺機能低下

(アストラゼネカ 「COPDがよくわかる本」から引用)

  • COPDの急性増悪の危険性

  • COPDの患者様が気道の感染症に罹ると、突然、日常生活に支障を来すような異常な息切れを来すことがあります。これを「COPDの急性増悪」といいます。COPDの急性増悪は入院が必要な状態です。このCOPDの急性増悪が問題となる2点目です。

  • COPDの患者様は肺がんになりやすい

  • COPDの患者様の3つ目の問題点は「COPDの患者様は肺がんになりやすい」ということです。肺がんチェックのためにも定期的な胸部レントゲンや胸部CT検査が必要になってきます。

Q10 COPDの治療の目標は何ですか?

COPDの治療目標は

  • 症状および生活の質の改善
  • 運動能と身体活動性の向上および維持
  • COPD急性増悪の予防
  • COPDの進行抑制
  • 全身併存症および肺合併症の予防と治療
  • 生命予後の改善
  • COPDの急性増悪を避けるためにはインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が勧められています。

Q11 COPDで使われる薬は?

治療の中心は気管支拡張薬(抗コリン薬・β2刺激薬、テオフィリン薬)となります。 喘息を合併している場合は喘息の薬も使います。

Q12 在宅酸素療法(HOT)とはどのような治療法ですか?

在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)とは自宅あるいは携帯用で酸素吸入器を使って酸素を供給する治療法です。健康保険が適応されます。

Q13 在宅酸素療法(HOT)の適応基準は?

  • 慢性呼吸不全あるいは慢性心不全の患者様で以下の条件を満たす場合、HOTの適応となります。

  • 慢性呼吸不全のうち、血液中のPaO2が55~60mmHgでも睡眠時や運動時に低酸素の悪化が認められるとき

  • 肺高血圧症を伴うとき

  • 心機能分類III度以上の慢性心不全で、睡眠時チェーン・ストークス呼吸がみられ、無呼吸低呼吸指数が20以上の患者様

  • チアノーゼ型先天性心疾患