高血圧

Q1 どうして高血圧になるのでしょうか?

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血液は心臓のポンプ作用によって、全身にくまなく送られます。血液が末端の組織までくまなく送られることで、末端の組織に酸素を供給し、二酸化炭素や余分な老廃物を回収する作業が行われます。心臓のポンプ作用によって血液を送り出すことで血管に一定の圧力が加わります。これが血圧です。

それでは血管にかかる圧力はどのようにして決まるのでしょうか?

血管にかかる圧力は次の3つの要素によって決まります

  • 心臓のポンプ作用の力

  • 心臓のポンプ作用の力が強くなれば血管にかかる圧力は上昇しますし、心臓のポンプ作用の力が弱くなれば血管にかかる圧力は低下します。

  • 体内を循環する血液の量

  • 体内を循環する血液の量が多くなれば血管にかかる圧は高くなり、循環する血液の量が少なくなれば血管にかかる圧力は低くなります。

  • 血管の弾力性

  • 血管がゴムホースのように柔らかければ血管が広がりやすくなり、血管にかかる圧は低くなります。しかし、土管のように硬くなれば血管の柔軟性が失われ、血管にかかる圧は高くなります。

    このように「血圧」は「心臓のポンプ作用の力」「体内を循環する血液の量」「血管の弾力性」の3つによって規定され、体やいろいろな臓器にとって負担のない範囲にコントロールされています。

    心臓がぎゅーと縮んだときに血管にかかる圧力が収縮期血圧(上の血圧)で、心臓が縮んだあとに広がって血液をため込むときに血管にかかる圧が拡張期血圧(下の血圧)です。通常は収縮期血圧も拡張期血圧も正常に保たれています。しかし、塩分摂取が多すぎたり(摂取塩分が多いと水分の摂取も多くなり結果的に循環する血液の量が多くなります)、動脈硬化によって血管の弾力性が失われていったりすると、血圧が上昇するようになります。診察室での正常血圧は140/90mmHg未満、ご家庭での正常血圧は135/85mmHg未満です。常に血圧の値が診察室で140/90mmHg以上、ご家庭での血圧が135/85mmHg以上は高血圧と診断され、治療の対象となります。

Q2 高血圧の原因にはどのようなものがありますか?

高血圧の原因は大きく分けて2つあります

  • 本態性高血圧

  • 1つ目は高血圧の原因の9割の患者様が該当する「本態性高血圧」です。原因が特定できない高血圧という意味で「本態性高血圧」と言われます。

  • 2次性高血圧

  • 2つ目は「2次性高血圧」と言われるものです。これは、高血圧の原因が特定できる場合です。比較的年令の若い方、高血圧の家族歴のない方に多く見受けられます。

2次性高血圧の主な原因は以下の通りです。

  • 血圧を調整するホルモン異常による内分泌性疾患(原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫、甲状腺機能異常)
  • 慢性腎臓病など腎機能低下に伴うもの(腎実質性高血圧)
  • 腎臓脈の狭窄によるもの(腎血管性高血圧)
  • 睡眠時無呼吸症候群
  • など

    Q3 高血圧の症状にはどのようなものがありますか?

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    頭痛、めまい、耳鳴り、頭重感、首の張り、肩こり、のぼせ、息切れ、動悸、発汗等を伴うことがありますが、ほとんどの患者様は「自覚症状がない」のが特徴です。そのため、高血圧の自覚がなく、放置されている場合があります。高血圧が放置されると様々な重要な臓器(脳、心臓、腎臓)の障害が現れるようになってきます。そのため、高血圧はサイレントキラーと言われているのです。

    Q4 高血圧の治療の目的は何ですか?

    高血圧治療の主な目的は次の2つになります。

    • 重要な臓器の障害を防ぐ

    • 高血圧が進行すると様々な臓器に負担がかかってきます。
      脳に負担がかかってくると意識消失や半身不随などの症状がでます。 脳の血管が傷害され、「脳卒中(脳出血、脳梗塞)」になってしまいます。 心臓に負担がかかってくると、息切れ、動悸、むくみ、胸痛などの自覚症状が認められます。 心臓の血管が傷害され、「狭心症」や「心筋梗塞」になってきます。 腎臓に負担がかかってくると、尿の出が悪くなる、むくみがでるなどの症状が認められます。 腎臓の血管が傷害され、「慢性腎不全」になってきます。
      このように脳や心臓、腎臓など重要な臓器に傷害を与えないために高血圧の治療が必要に なってきます。

    • 寿命を延ばす

    • 日本人の3大死因は、1位 悪性新生物(癌)2位 心疾患 3位 脳血管疾患となっていま す。2位の心疾患、3位の脳血管疾患はともに高血圧とも関連がありますので、寿命を延ば す意味でも高血圧の治療は大切になります。

    Q5 高血圧にも重症度があるのでしょうか?

    高血圧は下図のように重症度別に分類されています。

    (高血圧治療ガイドラインより引用)

    血圧は「正常血圧」「正常高値血圧」「高値血圧」「I度高血圧」「II度高血圧」「III度高血圧」「(孤立性)収縮期高血圧」の7つに分類されます。

    「正常血圧」「正常高値血圧」「高値血圧」の3つは正常範囲の血圧になり治療の必要はありません。「高値血圧」というのは高血圧の一歩手前で注意が必要な段階という意味です。

    「I度高血圧」、「II度高血圧」、「III度高血圧」と分類されたのは、血圧の重症度が上がるほど、循環器疾患による死亡率が高くなることがわかったからです。

    「(孤立性)収縮期高血圧」とは上の血圧だけが高く、下の血圧は高くない状態を指します。

    高齢者で動脈硬化により大動脈の伸展性が低下するために、上の血圧は上昇しますが、下の血圧はむしろ低下している状態です。

    Q6 高血圧の具体的な治療法(生活習慣の改善)について教えてください。

    高血圧の治療法には「生活習慣病の改善」と「薬による治療」があります。

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    • 食塩制限

    • 1日あたりの食塩摂取量6g以下が適正であると言われています。 食塩制限をするコツは
      1) 醤油よりもレモン、酢、ゆず、胡椒で味付けする
      2) カップ麺、インスタントラーメン、スナック菓子などの加工食品を避ける
      3) 味噌汁は半分摂取とし、ラーメンやうどんのスープは残す

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    • 減量

    • 肥満者は正常な体重の人と比べて2-3倍高血圧症になりやすいと言われています。
      肥満者が高血圧になりやすいのは
      1) 過食とともに塩分摂取量も多くなるため
      2) 過食によりインスリン(血糖を下げるホルモン)の分泌が多くなり、過剰に分泌されたインスリンが腎臓でのナトリウムの再吸収を促進し、体内の水分の貯留量を多くしてしまうため
      3) 過食によりインスリンの分泌が多くなり、このインスリンが交感神経を刺激して血圧を上昇させる作用があるカテコールアミンの量を増やしてしまうため
      4) 内臓脂肪が増えると内臓脂肪の脂肪細胞から血圧を上げる成分(アンギオテンシノーゲンという成分)の分泌量が増えてしまうため

      年齢を重ねていくと、次第に筋肉量が少なくなってきます。筋肉は摂取したカロリーを消費してくれる臓器とし大切な役割を果たします。年齢とともに全身の筋肉量が減っていくために、摂取したカロリーを消費してくれる割合が低下してしまいます。よく基礎代謝は年令とともに低下すると言われますが、それは全身の筋肉量が次第に低下し、消費できるカロリーが筋肉量の低下とともに低下していくのが原因となっています。そのため、年齢が若いころと同じ内容の食事を摂取していますと全身の筋肉量低下とともにカロリー消費量が低下しているために消費できないカロリーが余分なカロリーとして体に残ってしまいます。この余分なカロリーは脂肪として体内に蓄積されます。そのため、若いころと同じ量の食事を摂取している場合は、体重が少しずつ上がってしまうことになるのです。年齢とともに筋肉量が減ってしまうのであれば対策は次の2つになります。

      1) 筋肉量が落ちないように維持すること
      2) 筋肉量の低下とともに摂取する食事のカロリーを減らすということ 理想的な体重は以下の式で算出されます。 理想的な体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22 理想的な体重をはるかにオーバーしていても減量によって血圧を下げることは可能です。少しでも血圧を下げるために、減量に心がけるようにしましょう。

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    • アルコール

    • 適切なアルコール摂取量(日本酒で1合、ビール中瓶1本、ワイン2杯以下)であれば気持ちをリラックスさせ、血圧を下げる効果もありますが、過剰なアルコール摂取は血圧を上げるリスクになってしまいます。アルコール摂取が適正量を超えてしまうと、過剰なアルコール摂取により血管の収縮性が増加し、さらには交感神経が亢進し心拍数が増加して血圧が高くなることが知られています。またアルコールの摂取量が多くなればなるほど血圧も高くなることが知られています。アルコール摂取は適正な量を守ることが大事になります。

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    • 運動

    • 厚生労働省では運動については以下のように報告されています。 運動療法は血管内皮機能を改善し、降圧効果が得られ、高血圧を改善するといわれています。また有酸素運動が血圧に及ぼした影響を検討した複数の研究の結果、長期的な身体活動により高血圧患者では収縮期血圧(上の血圧)を7.4mmHg、拡張期血圧(下の血圧)を5.8mmHg低下させる効果があると報告されています。運動療法には以下のような運動種目・時間・強度・頻度が一般的に推奨されています。

      【運動の種目】

      ウォ―キング(速歩)、軽いジョギング、水中運動、自転車、その他レクリエーションスポーツなどの有酸素運動。

      【運動の時間と頻度】

      1週間にほぼ毎日、30分以上の運動を目標としてください。また10分以上の運動であれば、合計して1日30分以上としてもよいと言われています。

      【運動の強度】

      「ややきつい」と感じる程度の運動(心拍数100-120/分)が望ましいとされています。 運動強度はいきなり「ややきつい」運動を施行するのは身体に与える負担が大きいため、掃除、洗車、子供と遊ぶ、自転車で買い物に行くなどの生活活動のなかで身体活動量を増やすことから始めるのがよいとされています。

      【運動療法を始めるにあたっての注意事項】

      虚血性心疾患、変形性関節症のある患者様は担当医の許可のもと可能な範囲で運動療法を行うようにしてください。

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    • 禁煙

    • タバコに含まれるニコチンは副腎を刺激し、血管を収縮させる作用がある、アドレナリンやノルアドレナリンの分泌を増やします。そのため血管が収縮し血圧が上昇します。 1本の喫煙により収縮期血圧(上の血圧)は10-20mmHg上昇すると言われています。 さらに、喫煙の問題点は動脈硬化を促進してしまうことにあります。喫煙により心臓の血管の動脈硬化が進めば、狭心症や心筋梗塞のリスクが高くなります。また喫煙により脳の血管の動脈硬化が進めば脳梗塞のリスクが高くなります。 禁煙は単に血圧を下げるだけでなく、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞のリスクを減らす意味でも重要になります。

    Q7 高血圧の具体的な治療法(薬による治療法)について教えてください。

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    薬による治療は生活習慣を改善しても血圧が下がらない場合に行います。主な降圧剤には下記のようなものがあり、いくつかの薬を組み合わせることもあります。医師の指導に従って服用し、自分の判断でやめないようにしましょう。

    【主な降圧剤】

    • カルシウム拮抗薬

    • 血管を広げて血圧を下げます

    • ARB※、ACE阻害薬

    • 血圧を上げる体内の物質をブロックして血圧を下げます
      ※ARB:アンギオテンシン受容体拮抗薬、ACE阻害薬:アンギオテンシン変換酵素阻害薬

    • レニン阻害薬

    • 血圧を上げるレニンという物質をブロックして血圧を下げます

    • 利尿剤

    • 血管から塩分と水分を減らす事で血圧を下げます。

    • β遮断薬

    • 心臓の過剰な働きを抑えて血圧を下げます。