糖尿病

Q1 糖尿病とはどのような病気ですか?

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糖尿病とは血糖を下げる作用があるインスリンという物質が十分に働かなくなってしまい、結果的に血液中のブドウ糖(血糖)が高くなってしまう病気です。

Q2 インスリンはどのような働きをしているのでしょうか?

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私達が食事をした後は、栄養素の一部が糖となって腸管から吸収され、やがて血液中に供給されます。
私達が寝ている間は食事から糖を吸収することができません。
そのため、寝ている間は肝臓が中心となって糖を作り血液中に供給するシステムになっています。このように私達の体では、起きている間に食事を取っている間も、寝ていて食事を取っていない間も常に血液中に糖が供給されるようになっています。

血液中に供給された糖は血液中にある間はその役割を果たすことができません。
血液中に供給された糖は体の隅々にまで行き渡り、様々な臓器の細胞に取り込まれてはじめて、それぞれの細胞の中でエネルギー源として作用します。このように血液中の糖は様々な組織の細胞に取り込まれることでようやくエネルギー源としての役割を果たすことになります。血液中の糖が様々な組織の細胞に取り込まれるときに必要なもの、それが「インスリン」になります。
インスリンは膵臓から分泌される物質ですが、インスリンは血液中の糖を様々な組織の細胞内に取り込む重要な役割を果たしているのです。

Q3 糖尿病ではどうしてインスリンが十分に働かなくなってしまうのでしょうか?

糖尿病になるとインスリンが十分に働かなくなり血液中の糖を細胞内にうまく取り込めなくなってしまいます。インスリンが十分に働かなくなる理由には次の2つの原因があります。

  • インスリン分泌不足

  • インスリンは膵臓のβ細胞から分泌されるのですが、このインスリンの分泌が足りなくなってしまうことにより(インスリンの分泌不足)、血液中の糖が細胞に取り込まれなくなり、血糖が上がってしまう状態のことです。インスリンの分泌不足の原因はインスリン分泌に関わる様々な遺伝子の異常であると言われています。

  • インスリン抵抗性

  • 十分なインスリンがあっても、「血液中の糖を細胞内に取り込むというインスリンの作用が発揮できない状態のこと」を「インスリン抵抗性がある」といいます。インスリンが十分にあってもインスリンの標的臓器のインスリン感受性(インスリンの効き具合)が低下し、インスリンの作用が鈍くなっている状態とも言えます。インスリン抵抗性が生じる原因には、「インスリン感受性に関わる様々な遺伝子の異常」による遺伝的要因と「肥満」「過食」、「高脂肪食」「運動不足」「ストレス」などによる環境要因があります。

Q4 糖尿病ではどのような症状がでますか?

無症状のまま糖尿病になっている方が数多くおります。
著しく血液中の糖が増加すると次のような症状が出現します。

  • 多飲多尿(喉がいつも渇き、水をよく飲む。尿の回数が異様に多い)
  • 体重減少
  • 疲れやすい
  • 意識混濁
  • 症状なく糖尿病となっている方が多いので、毎年健康診断を受けるようにしてください。

Q5 糖尿病にはどのような種類がありますか?

  • 1型糖尿病

  • 膵臓からインスリンが出なくなってしまうため、注射でインスリンを補充する必要があります。「若年発症」「急激な症状の出現」「やせ型の人が多い」という特徴があります。

  • 2型糖尿病

  • 最も頻度が高い糖尿病です。インスリンが出にくくなったり、インスリンが効きにくくなったりして血糖値が高くなります。「過食」「運動不足」「肥満」などが影響します。「中高年に多い」「無症状で気づきにくい」「肥満の人が多い」といった特徴があります。

  • 2次性糖尿病

  • 他の病気や薬が原因で糖尿病になる場合をいいます。
    (1) 膵臓や肝臓の病気
    膵癌、肝硬変など、膵臓や肝臓の病気が原因で糖尿病が起こります。
    (2) 内分泌疾患
    甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、アルドステロン症などの内分泌疾患によって糖尿病が引き起こされる場合があります。
    (3) 薬剤
    ステロイドホルモンの内服によって糖尿病が引き起こされる場合があります。

Q6 糖尿病はどのように診断するのですか?

【図1】に診断のフローチャートを示します。

  • 初回検査で血糖値、HbA1Cともに糖尿病型の場合、糖尿病と診断します


  • 血糖値のみ糖尿病型の場合
  • 「糖尿病の典型的な症状」「糖尿病網膜症」のいずれかがあれば糖尿病と診断します。いずれもない場合は再検査を行い、「血糖とHbA1Cがともに糖尿病型」「血糖値のみ糖尿病型」「HbA1Cのみ糖尿病型」の場合、糖尿病と診断します。

  • HBA1Cのみ糖尿病型の場合
  • 再検査で「血糖とHbA1Cがともに糖尿病型」「血糖値のみ糖尿病型」の場合、糖尿病と診断します。

【図1】 糖尿病診断のフローチャート

(「糖尿病治療ガイド」から引用)

Q7 糖尿病の治療目標について教えてください。

コントロールの指標を順番にお示しします。

  • 血糖、HbA1Cコントロールの指標

  • 65歳未満のHbA1Cコントロールの指標を【図2】に65歳以上のHbA1Cのコントロールの指標を【図3】に示します。
    65歳未満では合併症予防目的ではHbA1Cは7.0未満が治療目標です。

    65歳以上では、認知機能が正常かつADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)が自立しており、インスリン製剤、インスリン分泌促進作用のあるSU(スルホニル尿素)剤(詳細は後述)、グリニド薬(詳細は後述)の使用がなければHbA1Cは7.0未満、使用があれば7.5未満(65歳以上75歳未満)、8.0未満(75歳以上)が治療目標となります。

    認知機能障害が軽度または手段的ADL(買い物、洗濯などADLより複雑で高次な動作)が低下している場合は、インスリン製剤、SU剤、グリニド薬の使用がなければHbA1Cは7.0未満、使用があれば8.0未満となります。
    中等度以上の認知症または基本的ADL低下または多くの併存疾患や機能障害がある場合、インスリン製剤、SU剤、グリニド薬の使用がなければHbA1Cは8.0未満、なければ8.5未満が目標となります。

【図2】 65歳未満の血糖コントロール目標

(糖尿病治療ガイドから引用)

 

【図3】 65歳以上の血糖コントロール目標

(糖尿病治療ガイドから引用)

 

  • 血糖以外のコントロール目標

  • (1) 体重→標準体重=身長(m)×身長(m)×22を目標とします。
    (2) 血圧→130/80mmHg以下を目標とします。
    (3) 血清脂質
        LDL-コレステロール 120mg/dl未満
        HDL-コレステロール 40mg/dl以上
        中性脂肪 150mg/dl未満 を目標とします。

Q8 糖尿病の食事療法について教えてください。

ステップ1

1日に必要な摂取カロリーの合計を計算します。
1日に必要な摂取カロリー=標準体重×25-30kcal
※標準体重=身長(m)×身長(m)×22

ステップ2

1日に必要な「主食の量」を決めます。
1日に必要な主食の量は1日に必要な摂取カロリーの半分とします。
例えば1日1600kcalであれば1日の主食の量は800kcal、これを3食で割って食べるようにします。

ステップ3

1日に必要な「主菜(肉や魚)の量」を計算します。
1日に必要な主菜の量は1日に必要な摂取カロリーの1/4とします。
例えば1日1600kcalであれば1日の主菜の量は400kcal、これを3食で割って食べるようにします。

ステップ4

主食、主菜以外は副菜(野菜、海藻、きのこなど)とし、たっぷり食べるようにします。

Q9 糖尿病の運動療法について教えてください。

  • 運動の種類

  • 運動には【図4】のように「有酸素運動」と「レジスタンス運動(筋負荷運動)」があります。 有酸素運動によりインスリン感受性が増大することがわかっています。 筋肉量を増加し、消費エネルギーを増加する目的ではレジスタンス運動が有効です。

【図4】

(糖尿病治療ガイドから引用)

  • 運動の強度

  • 50歳未満→運動時の心拍数が1分間100~120拍の運動
    50歳以上→運動時の心拍数が1分間で100以内に留めることが望ましいとされています。

  • 運動の頻度

  • できれば毎日、少なくとも週3~5回、上記の強度で20-60分間の有酸素運動が望ましいとされています。
    【図5】に体重60kgの人が100kcalを消費するのに必要な運動の種類と時間を示します。

【図5】 100kcal消費する運動と時間(体重60kgの場合)

(糖尿病治療ガイドから引用)

Q10 運動療法を禁止あるいは制限したほうがよいのはどういう場合でしょうか?

次のケースでは運動療法は禁止あるいは制限したほうがよいと言われています。

  • 空腹時血糖250mg/dl以上あるいは尿ケトン中等度以上陽性
  • 増殖網膜症による新鮮な眼底出血がある場合
  • 腎不全の状態にある場合
  • 虚血性心疾患のある場合
  • 骨・関節疾患がある場合
  • 急性感染症
  • 糖尿病性壊疽(えそ)
  • 高度の糖尿病性自律神経障害

Q11 糖尿病の薬による治療(経口薬)について教えてください。

【図6】に「病態に合わせた経口血糖降下薬の選択」を示します。

ポイントは
経口薬は「インスリン抵抗性改善薬」「インスリン分泌促進薬」「糖吸収・排泄調整薬」の3つに分かれているということです。それぞれの薬は以下のケースで使用します。

  • インスリン抵抗性が増大している場合

  • 「インスリン抵抗性の改善作用」のある「ビグアイド薬」や「チアゾリジン薬」を選択します。

  • インスリン分泌能が低下している場合

  • 「インスリン分泌促進作用」のある「SU薬」、「グリニド薬」、「DPP-IV阻害薬」を選択します。

  • 食後高血糖、空腹時高血糖を認める場合

  • 「糖吸収・排泄調整作用」のある「α-GI」や「SGLT2阻害薬」を選択します。

【図6】 病態に合わせた経口血糖降下薬の選択

(糖尿病治療ガイドから引用)

それぞれの薬の特徴は以下の通りです。

  • ビグアナイド薬(インスリン抵抗性改善薬)

  • 糖新生(夜間に肝臓が血液中の糖が下がらないように血糖を供給すること)の抑制が主体ですが、消化管からの糖吸収の抑制や末梢組織でのインスリン感受性の改善などにより血糖降下作用を発揮します。「乳酸アシドーシス」(血中の乳酸が増加し、血液の酸性度が増すことによって意識障害や昏睡などに至ること)の副作用があるので、肝・腎・心・肺機能障害のある患者様には使用はしません。

  • チアゾリジン薬(インスリン抵抗性改善薬)

  • インスリン抵抗性の改善を介して血糖降下作用を発揮します。女性の場合、心不全の副作用もあるので、少量から内服した方が安全です。

  • SU(スルホニル尿素)薬(インスリン分泌促進薬)

  • 膵臓のβ細胞に作用しインスリン分泌を促進することで血糖降下作用を示します。低血糖の副作用があります。

  • 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)(インスリン分泌促進薬)

  • 膵臓のβ細胞に作用しインスリン分泌を促進することで血糖降下作用を示します。SU薬と比較しますと、血中からの消失が早く、食後の高血糖の改善作用に優れています。

  • DPP-IV阻害薬(インスリン分泌促進薬)

  • 食物が小腸に到達するとGLP-Iという物質が産生されます。GLP-1は膵臓のβ細胞に作用して必要なインスリン分泌を助け、血糖降下作用を示します。生体内ではGLP-1はDPP-IVという分解酵素によってすぐに分解されてしまいます。このDPP-IVによる分解を阻害し、GLP-1が膵臓のβ細胞に働きやすくする薬―それがDPP-IV阻害薬です。DPP-IV阻害薬はSU薬やグリニド薬に比べて低血糖が起きにくいという特徴があります。

  • α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)(糖吸収・排泄調整薬)

  • 腸管からの糖の吸収を遅らせることにより食後の高血糖を改善する作用があります。

  • SGLT-2阻害薬(糖吸収・排泄調整薬)

  • 腎臓でのブドウ糖の再吸収を抑制することにより血糖降下作用を発揮します。体重減少作用も期待される薬です。女性では尿路感染などの副作用があります。

Q12 糖尿病の薬による治療(注射薬)について教えてください。

注射による治療薬には「インスリン」と「GLP-1受容体作動薬」の2つがあります。

  • インスリン療法


  • インスリン療法の適応は以下の通りです。
    1) 1型糖尿病(インスリンが分泌されないため)
    2) 高血糖性の昏睡の場合
    3) 重症の肝障害、腎障害を合併しているとき
    4) 重症感染症、外傷、中等度以上の外科手術の場合
    5) 糖尿病合併妊婦
    6) 著明な高血糖(例 空腹時250mg/dl以上、随時350mg/dl以上)の場合
    7) 経口薬療法のみではコントロールが不良な場合

    インスリンの種類は以下の通りです。
    1) 超即効型あるいは即効型インスリン→食後の高血糖を改善するために使用します。
    2) 中間型あるいは持効型インスリン→インスリンの基礎分泌を補うために使用します。
    3) 混合型インスリン→超速効型と中間型を混ぜたインスリンです。食後の高血糖予防と基礎インスリンを補う両方の作用を持っています。

  • GLP-1受容体作動薬

  • 膵臓β細胞のGLP-1受容体に結合し、血糖依存的(血糖が高いときは強く働き、血糖がそれほど高くないときには弱く働く)にインスリン分泌作用を発揮する注射薬です。インスリンと比較し、低血糖が起きにくい。用量調節が不要であるという利点があります。